面白画像を紹介して下さい(今日のテーマ)
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
東京駅を発車し、西走する東海道新幹線ひかり号のグリーン席で、原野萬栄こと原野和生は、マスコミを警戒し、父によく似た長身を黒いジーンズに黒いTシャツといった楽な身なりに改め、サングラスで顔を隠すようにして、ゆったりと座っていた。
ひかり号が新横浜駅を出ると、ふと窓外に目を向け、萬栄は昨夜の出来事を思い返した。
銀座七丁目のレストランを借り、高校時代の同窓会が催された後、新橋の居酒屋での三次会までつき合わされたときだった。
酔い覚ましにと、気の合った仲間数名で西新橋から霞ヶ関まで歩いているうちに、フランスの一流ブランドの宝飾品を扱っている販売店を一つ任されていたものの、リストラで職を失ってしまった同窓生の一人が、酒が入っていたこともあり、海外文学を舞台にした『ハムレット』のハムレット役や『テンペスト』のエアリエル役などに積極的に出演し、また、源氏物語を前衛的な解釈で演出した『葵上(あおいのうえ)』や『半蔀(はんしとみ)』にも挑み、内外から高い評価を得ている萬栄の活動をろくに理解のないまま、
『親が敷いたレールの上を、我が物顔で走っているだけのトロッコ』
『誰も見向きのしない能楽などにしがみついている時代錯誤』
など、傍若無人に罵倒したのだった。
そうした同窓生のあまりの剣幕に、旧友たちの誰もがたじろいでいると、往来の誰かが一一〇番通報し、警察官二名が駆けつける騒ぎになってしまった。
しかし、ここで事件にしてしまってはと、後のことは旧友たちに任せ、萬栄は逃げるが勝ちとばかりにタクシーを拾い、立ち去ったのだった。
思えば、古典芸能を継承する家に生まれた限りは、同窓生になじられたこと全てを否定できない環境であることも、萬栄は承知していた。
原野家が代々継承している狂言の清泉流の始祖は、室町時代前期まで遡り、江戸時代初期に尾張徳川家に召し抱えられていた能楽師たちが便宜上、寄り集まって流儀となしたのだった。
そうした集団の代表を務めたのが、金沢で酒屋を営んでいた初世亀蔵で、狂言が大変に達者であったことから加賀前田家のお抱えになっていた。この亀蔵が峰作や萬栄の直系の先祖にあたっている。
江戸時代は大名の庇護により発展した能楽であったが、大名の扶持(ふち)からはずされた明治維新や能舞台や豪華な衣裳、精緻な面などを太平洋戦争の空襲で多くを失ってしまうなど、大難を経験しながらも、平成の現在まで能と狂言は、能楽と総称され、日本の古典芸能として確固とした地位を築いている。
こうした家筋に生まれた萬栄は、三歳のときに『靫猿(うつぼざる)』という名寄せ(演目)に出演させられ、次いで、『いろは』でシテと呼ばれる主役を与えられた。
祖父の稽古は優しく、楽しかったが、父の教え方は厳しく、今だ空恐ろしい存在であった。
能楽にも台本に相当するものはあるが、実際には舞や謡、言葉の抑揚、表情、所作などは全て口伝で、三回目までは教えられたが、四回目からは怒鳴られ、殴られるのが当然で、こうした父の息子たちへの指導に、家族は何も言わないのが家風であった。
小学四年生のときであったか、自分の家がクラスメートのそれと相当に異なることを思い知らされた出来事があった。
ある日、数名のクラスメートから放課後に遊びに誘われたものの、稽古があるからと萬栄が断ると、クラスメートたちはつき合いが悪いと萬栄をなじった。
萬栄は、それなら一緒に父の稽古を受けようと言い、クラスメートたちを能舞台と同じ造りの稽古場を設けたことから、寺院の庫裏のように広い自宅に連れて帰った。
丁度、祖父が般若の面を打っていて、その姿を恐ろしく感じたのか、クラスメートの一人は突然に泣き出し、逃げるようにして帰ってしまった。
その後、残ったクラスメートたちと萬栄が、稽古場の片隅で正座を十五分も父に続けさせられていると、クラスメートたちはたちまち音を上げ、帰ってしまった。
自宅にきたクラスメートたちは、この日以降、萬栄と目を合わせることもなくなってしまった。
この出来事から、萬栄は稽古のことは無論、公演のことも学友たちには話さなくなり、それが高校卒業まで続いた。
萬栄は大学では経済学を学びたかったが、思いもかけず父から『翁』の『三番叟』を披(ひら)く、と呼ばれている初演をさせてもらえたこと、世界的に著名な日本人の映画監督が『リア王』と戦国物を巧みに融合させた超大作に、亡国の若君という役所で出演させてもらえたこと、そして、受験勉強の際に、やはり高名な評論家の著作に父の原野峰作の活動を大変に評価した論文を目にしたことから、ようやく能楽に可能性を見いだし、東京芸術大学の音楽部邦楽科能楽専攻に進む決意をしたのだった。
○
峰作は、家族の目を盗むようにして玄関先に置いた電話機から、古典芸能に対し、好意的な記事を書くスポーツ新聞社のスーパースポーツ編集部で懇意にしている芸能面担当記者に電話をかけると、長男の和生と早朝から連絡が取れなくなっていることを打ち明け、行き先について心当たりを尋ねると、記者は、
「ああ、それは心配ですね。実は、今朝早く、萬栄さんから昨夜の件にコメントをいただければと、萬栄さんの携帯電話に電話をかけてみたんですよ。すると」
峰作は受話器を一層、耳に押し当て、
「和生と話ができたんですか?」
「はい、昨夜のことは、酒の席での延長線上のことであるから、これ以上、騒ぎ立てないでほしい、とおっしゃっていました。このコメントがとれたとき、萬栄さんの声と重なって、
『間もなく七時〇六分発ひかり四〇一号が十五番線に入線いたします、どちらさまも防御策の内側に下がってお待ち下さい』
というアナウンスが聞こえてきました。通話の後、時刻表で調べてみると、ひかり四〇一号は、六時四十六分に東京駅の十五番ホームに入りますから、萬栄さんはこのとき東京駅にいたんですね」
記者は予想すらしなかった情報を峰作にもたらした。峰作は丁重に礼を言い、受話器を置くと、ひかり号の停車駅を思い返したが、早朝から長男が訪ねるような土地は考えつかなかった。
いや、ひかり号の停車駅から更に在来線に乗り換えるとしたら、もはや長男を捜し出す手がかりなど何もない……
峰作は、自らの心のように小暗い玄関先で、茫然と立ち尽くした。
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
BlogPet 今日のテーマ 海に行きますか?
「夏といえば海やプールを想像しますが、今年は海に行く予定はありますか?行くならどこの海に行きますか?」
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
関東に梅雨明け宣言は出されていなかったが、朝から強い陽射しが首都圏を照らし、今日も真夏日になることが察せられる。
狂言方清泉流の実質的な宗家に相当する原野峰作(みねさく)は、品川・高輪台にある木造二階建の自宅の階下(した)を能舞台と殆ど同様の造りにした稽古場に足を踏み入れると、長男で二世萬栄(まんえい)を襲名している和生(かずき)の姿が見えないことにむうっと不機嫌になった。
横浜市西区にある横浜能楽堂を使い、宮内庁主催で天皇・皇后両陛下を始めとした皇室を招いて行われる天覧(てんらん)と呼ばれる晴れ舞台は、もう明日にと迫っていて、一分一秒を惜しんで稽古を重ねたいにもかかわらず、長男からは真剣味が窺えず、腹立たしかった。
このとき、次男の継典(つぐのり)が稽古場に入ってくると、
「おとうさん、ちょっと……」
妙に改まって話しかけた。 継典の背後には、思い詰めたように涙ぐむ妻の芙美代(ふみよ)の姿もあった。
「どうした?」
次男にとも妻にともなく尋ねると、継典はスポーツ新聞を三紙ばかり父に差し出した。どの芸能面も三段から四段のぶち抜きで、
『能楽堂の貴公子』官庁街でも貴公子
『貴公子萬栄』霞ヶ関でも紳士として
原野萬栄 西新橋で人徳を舞う
仰々しい見出しをつけられ、昨夜、萬栄は、銀座七丁目のレストランで同窓会を終え、二次会、三次会へと流れた帰途、西新橋から霞ヶ関にかけて泥酔した同窓生に絡まれ、警官まで駆けつける騒ぎになったものの、巧みにその場を収めた、と報じられている。
「まるで騒ぎにならなかったって書いてあるじゃないか、それなのに和生はどうして稽古に出てこないんだ? おい、汐留に電話してみろ!」
峰作は、結婚を機に実家を出、汐留のマンションに移った長男宅に連絡を取るように継典に指示したが、芙美代は夫の手を力任せに引き、階上(うえ)のリビングまで連れて行くと、放送中のニュース番組を映し出したテレビの前に座らせた。
ニュースキャスターが畳大ほどに拡大したスポーツ紙の芸能面を指示棒で示しながら、
「昨夜、人間国宝、日本美術院会員で著名な狂言師原野峰作氏の長男・原野萬栄氏が、同窓会の帰途、霞ヶ関の官庁街で泥酔した同窓生に絡まれ、警官が駆けつけるという騒ぎに巻き込まれました」
活字だけの新聞と比べ、テレビ報道はニュースキャスターの語調から事件の重大さが伝わり、峰作は思わず身体を硬くし、テレビの画面に見入った。
画面は、目撃者証言のVTRに切り替わった。官庁で残業帰りの中年女性が顔にモザイクをかけられ、
「はい、同窓生らしい男の人が、延々と萬栄さんを罵倒していました。
『親の七光りが解らないバカ野郎』
『大して流行(はやり)もしない能楽なんぞに入れ込んだ時代遅れ』
などと、聞いているわたしの方が怖くなって、自分の携帯電話で一一〇番通報しました」
次いで、アルバイトの帰りらしい若い男のアップに切り替わり、
「でも、萬栄さんは顔色一つ動かさず、
『俺は、明日も朝が早いから。お前もよく酔いを覚ましてから帰ることだ』
と言って、すぐにその場を立ち去ったんだ。さすが『能楽堂の貴公子』だね、かっこよかったよ!」
峰作は思い詰めた様子の妻を励ますつもりで、
「和生は、怪我をさせたのでもさせられたわけでもないじゃないか。こんなに騒がれおって仕方のない奴だ!」
ほっと一安心し、苦笑したが、妻はますます激昂し、
「あなた、そんな冷たい言い方をしないで下さい! 酒が入っていたとはいえ、和生は人生をかけて大切にしてきたものを、同窓生に悪し様にされ、否定されたんですよ! 今頃はひどく傷ついて、どうしていいのか解らなくなっているのかと思うと……」
長男の胸中を察し、言葉を詰まらせた。峰作は、自分自身に言い聞かせる思いで、
「あいつをそんな弱い男に育てた覚えはない! 天覧はもう明日なんだぞ、狂言師が失踪して天皇陛下に公演は中止になりました、などと言えるか!」
声を上げ、次男を見ると、
「継典、お前、『三番叟(さんばそう)』は演れるな」
「はい、おとうさん」
父の言葉に、継典は、清泉流を継ぐのは、とどのつまり、俺さ、とにやりと笑った。
清泉流は、もう二十年も前に宗家は断絶していたが、実質的に原野家が宗家を代行していた。そろそろ父の後継を決めておかねばならず、誰もが兄の和生が、と考えているが、兄は繊細に過ぎ、周囲が気を遣うことも少なくない。対して、次男は朗らかですぐに場の空気にとけ込み、同時に明るい雰囲気を作る不思議な資質があった。
峰作は、万が一、明日までに長男が帰らなかったときは、長い冬から大地を目覚めさせ、五穀豊穣を願う祈りの芸能である『翁』の『三番叟』は次男に演らせようと、苦肉の策を立てたが、継典は『翁』を冒頭に次の番組の『千切木』の『太郎冠者』も演じることになっている。激しい所作が続く『三番叟』のすぐ後に次の番組に出すなど無茶苦茶であった。
峰作は、はっと我に返ると、
……いや、俺が心配しているのは、天覧のことじゃない、和生だ。お前、どこに行ったんだ、お前はそんなに弱い男だったのか……
すっかり薄く白くなってしまった頭髪の生え際から、深く刻まれた頬のしわへと汗が伝わり流れるのを、峰作は茫然と感じ取った。
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
BlogPet 今日のテーマ 屋台でつい買ってしまう...
「そろそろ夏祭りの季節。あなたが屋台でつい買ってしまうものを教えて下さい。」
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
BlogPet 今日のテーマ 幕末といえば?
「今日は日本にペリーが上陸した日です。そんな日にちなんであなたが幕末で思いつくことを教えて下さい。」
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
BlogPet 今日のテーマ オレ時間
「今日は日本標準時が制定された日です。そんな日にちなんであなたの時間に関するルールがあれば教えて下さい。約束の時間の5分前には到着する。15時になったらおやつを食べるなどなど。なんでもかまいません。」
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
BlogPet 今日のテーマ 語呂あわせ
「良い国(1192年)鎌倉幕府。鳴くよ(794年)ウグイス平安京など、いろんな語呂合わせがありますが、あなたが覚えている語呂あわせを教えて下さい。」
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
BlogPet 今日のテーマ 近所のコンビニ
「もはや生活になくてはならないコンビニ。あなたの家の近くにあるコンビニはどこですか?」
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
BlogPet 今日のテーマ 納豆食べれます?
「7月10日は納豆の日です。好き嫌いが分かれる納豆ですが、あなたは納豆を食べれますか?」
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
最近のコメント